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2007年12月21日 (金)

黒史郎『獣王』

Book 獣王 (幽BOOKS)

著者:黒史郎
販売元:メディアファクトリー
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02943723夜は一緒に散歩しよ』で『幽』怪談文学賞長編部門大賞を受賞し、その後、怪談やクトゥルー神話を題材にした短編を精力をもって発表している黒史郎氏の長編小説第二作目。

 [bk1]書籍情報(2008年1月15日まで購入特典あり)

 動物園「アルカ」の飼育係をしている「私」は、子供のころから、妖怪や怪物が好きで、その類の本を読んでは妄想ばかりしていた。父親からは暴力を振るわれ、学校では陰湿な教師のいやがらせ、いじめにもあっていた。動物園内でも汚い仕事を押しつけられたり、不当な扱いをされている。
 やがて、園内に長い睫毛にはさまれたライトブルーの瞳を持つ不思議な女性が毎日あらわれるようになり、さまざまな動物の鳴き声などの擬態をする。だが、彼女が擬態をはじめた動物たちは一頭が必ず死ぬという不可解な現象が起こる。
 女性に惹かれる「私」は、やがて動物園の寮でもあるアパートの一室で彼女と奇妙な同棲生活をはじめるようになる。数数の動物の擬態をつづける彼女はやがて容姿から行動までもが、動物そのものへと変貌してゆく。そして、擬態された動物たちには死が訪れる。彼女は何者なのか。女性に「キョウコ」という母親と同じ名前をつけた「私」は寮に自分しか住んでいないことを幸いに部屋を彼女が過ごしやすいように改造し、動物園ならぬキョウコ園とでも呼ぶべき快適な空間を作りあげようとする。だが。

 
 一気に読み終えてしまいました。
 キョウコが何者なのだろうという謎解きよりもむしろ、「私」が狂気に蝕まれてゆく過程、というよりも、狂気が発露する場面の心理描写が秀逸で息を呑みました。
 もう少し、「私」がこれまでの半生をどう生きてきたか、女性全般に対してどのような思いを抱いているのか、描いていてほしかったですが、このあたりはもの足りないくらいがちょうどよいのかも知れません。

 アパートを、キョウコがどんな次にどんな動物に変貌してもよいように、計画を建て、改造してゆく「私」の渾身ぶりと楽しげなようすは、ほほえましくもあるのですが、その分、続く展開ではこのときの明るさが闇に転じます。

 そして、ひとつの「誕生」とともに、物語は加速をつけて暗い道をすすんでゆきます。「私」の勤めている動物園の細かい描写が前半にもう少し書きこまれていれば、ラストの凄絶な場面はなおのことひきたったかと思う向きもあるのですが、狂気の行き着く果てが闇よりもなお暗い世界を映し出す世界はどっぷりと浸れます。

 夜の動物園が好きな方、惹かれる方におすすめ。

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