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2008年9月22日 (月)

第25回西荻ブックマーク 堀内薫「キャトランドーレの世界を語る」(スタッフ日記)

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9/21 15:00

 北尾トロさんの事務所にゆくものの、手違いで空いていなく、仕方なく、ひとまずパラディス岩崎さんのワゴン車に乗って、本日の会場である西荻南のスタジオマーレへ。
 ワゴン車のワゴンに乗りました。こういうところに乗るの子供のとき以来。

 マーレにはすでに堀内薫さんが奥様とともにいらしてました。
 搬入開始。

 魔法陣の細密なる鉛筆画やキャトランドーレの工芸品を飾ります。
 鉛筆画は繊細で、透明で、鉛筆だけなのに水の質感から、絹の透き通り具合までが微細にあらわされていて、展示を手伝いながらも、魅入られてしまいました。吸いこまれそうな美しい世界。
 工芸品は思っていたよりも重くて、配置するのに緊張しました。
 それにしても、工芸品ひとつがおかれただけで、なにもないスタジオがあたり一帯の世界が変わったようになるから神秘です。
 北尾トロさんも食い入るようにして、見ておられました。

 会場の設置開始。
 おつりがないことに気がついて、音羽館まで走って、両替にいったりした。
 今回の担当のりきさんと司会進行の原田史子さん、堀内さんは喫茶店「赤レンガ」で打ち合わせ。

 16時半。開場。
 いちばん最初に来られたのは、五十嵐彪太さんとマンジュさんでした。おおっ、いらっしゃいませ。
 秋山真琴くん、言村律広さん、夏目陽さんも来られた。

 17時。北尾トロさんから挨拶。

 西荻ブックマークのスタッフ、原田史子さん司会進行で第一部のトークショーが開始。
 キャトランドーレとは何か、から始まって、堀内さんの幻想作品の原典というべき、20年ほど前のオーストラリア滞在記の話など。日本では考えられないくらいのスケールの大自然を前にした自転車旅行のようすは、ときには笑いを誘われもし、ときには語られる神秘なる光景に目を見張らされました。
 堀内さんの声はたいへんよく通っていて、トークもお上手でした。
 第二部は、製作の実演。
 実際に粘土をこねられて、製作の過程の一部を実演披露してくださいます。
 会場には、まだ製作途上である、まだ焼いていない粘土を使った作品が展示されています。
 思いもかけない身近な道具を使った、製作のようすにはギャラリーからも歓声があがりました。
 配布されているカラー写真つきの資料をもとに説明がされます。

 僕は堀内さんの近くで、机を押えたり、切り落とされた粘土を片付けたりしていましたが、スタッフの役得というべきか、堀内さんの製作のようすをごく間近で見ることができました。

 製作の上での苦労話も聞かせてくださいます。
 最後は質疑応答。長年の堀内さんのファンの方ならではの鋭い質問から、はじめて堀内作品に触れる方からの素朴な質問まで、冗談を交えながらも堀内さんは丁寧に答えてくださいました。

 盛況のうちに、イベントはつつがなく終了。

 搬出。工芸品は堀内さんたちが片付けられたのですが、はたで見ていても緊張しました。

 そのあとは打ち上げ。
 堀内さんからも興味深いお話も聞けた。今度は鉛筆画の製作のお話もぜひ聞かせてください。

 それにしても、今回のイベントは画期的で、まさに西荻ブックマークならではのよさが前面に出ていたよいイベントでした。自画自賛になりますが、西荻ブックマークって、いい催しやるよなあ、と傍らで感心しながら見ていました。

 忙しくて、せっかく来てくださった方ともあまりお話もできませんでしたが、また興味のあるイベントがありましたらいらしてください。

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2008年9月21日 (日)

未来百怪オフ

9/20 17時過ぎ

 秋山真琴くんたちの「幻視コレクション2」の製本を手伝うつもりが、電車事故のため、遅れに遅れて、東京駅八重洲口に到着。

 PRONTOに秋山くんと加楽幽明くんがいた。幽明くんははるばる東京まで来てくれたのだけれども、ちょくちょくあっているので、距離を感じない。
 製本というか、新しく刷り上ったばかりの西荻ブックマークのチラシを幻視コレクション2の小冊子にはさんでゆく。

 八重洲口にゆくと、タカスギシンタロさんと赤井都さんの姿が。そのあと、続続集まってきます。
 白縫いさやさんは、八重洲口でいきなり、五十嵐さんやマンジュさんに脱がされていました。

 一次会場へ。
 以下、超短編、てのひら、回廊、豆本作家といろいろ物書きたちが異様に多い空間のなかで、カオス的宴会がくりひろげられました。

[おもにあったこと]
・本田モカさんの音頭で乾杯。
・いきなり自己紹介から
・白縫いさやさんが自己紹介大トリ。大喝采。

・だいさん作、立花腑楽さん所持の女陰のお面が大好評。この光沢が。みんなでまわしてかぶる(撮影しましたが、画像はとてもあげられませんw)。
 でも、意外とかっこいいという説も多多。
・みおさんと黒史郎さん持参のオブジェが並ぶ

・白縫いさやさんに岩里藁人さんが手がけてくれた第六回bk1怪談大賞受賞作「傘の墓場」の栞をお渡しする。岩里さんからのメッセージも。いさやさん感激されてました。

・岩里さん作の「傘の墓場」栞を配りながら、山下昇平画伯の手首燭台を手に席を移動しまくる僕

・山下さんの手首オブジェ、美しいと大評判。これで応募作品が増えるといいのですが。

・クトゥルーぬいぐるみも会場をめぐる。ほんとにいろんな奇怪なものが飛び交う宴会なのであった。

・金子みづはさん登場。結構たくさんお話できました。岩里さんが手がけられた栞もお渡しする。

・金子さんはみんなのサインをもらっていた。僕も書いた。

・武田若千さんもこの日の記念に特製サイン帳にみんなのメッセージとサインを集めておられた。

・幽明くんもみんなからサインをもらっていた。

 ほんとうにカオスでした。後半は4間の会場がから2間くらいにみんな集まってきていて、密集率が高かったです。僕も食事も酒もそっちのけで、挨拶まわりに精を出してました
 幹事の峯岸さん、おつかれさまでした。よい交流の場を提供してくださって、ほんとうにありがとうございました。
 最後は巨大なキリンの像の前でみんなで記念撮影しました。
 2次会もあり、24時過ぎまで。大騒ぎ。

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2008年9月14日 (日)

島本理生『波打ち際の蛍』

波打ち際の蛍 Book 波打ち際の蛍

著者:島本 理生
販売元:角川グループパブリッシング
Amazon.co.jpで詳細を確認する

 元恋人のDVから逃れて、近所のドラッグストアで買い込んだ風邪薬36錠と吐き気どめ18錠、鎮痛剤12錠、抗生物質6錠をビールで一気飲みして、ICUに運び込まれた川本真由は、その後カウンセリングに通うようになり、エレベーターでうずくまっていた男性、植村蛍を介抱することになる。それがふたりの出会い。
 心の病を抱えたもの同士のふたりは、惹かれあい、どちらも不器用ながらも歩み寄りはじめるが。

 ふたりの、薄暗いなかを文字通り、手探りで歩み寄ってゆく、はじめのあたりの展開はもどかしさを伴いつつも、それがかえって心地よい律動を感じます。
 蛍の書斎は拝見してみたいな。
 足のマッサージも受けてみたいです。

 主人公が元恋人から受けていたDVの実態がよく見えず、もちろんそれを主人公から語らせるには酷過ぎるので、あるいはこの作品は一人称形式よりも、蛍やさとるくん、あるいは主人公の母親の視点からも書いたほうが、幅がひろがり、より主人公の傷が浮かびあがったのではないかな、と少し思いました。

 ことに蛍に関しては、誕生日のあの行動はだめだろう、というか無頓着すぎるだろう、と疑問に感じ、もっといえば、ほんといままでの物語のゆるやかなリズムを一気に覆された気がしたので、彼の視点から、どうしてああいう行動を取ったのか、それでいいと思ったのかをを、ぜひ描いてほしかった気がする。

 さとるくんは役の大きさからすると、登場がちょっと遅いかな。最後のほうでも、さとるくんや母親にもちょこっとでいいから登場してほしかった。

 空港の近くの夜の海岸で発着する飛行機の光をふたりで見つめる場面がいちばん好きです。場面の美しさもだけれども、手をつないだ、というには若干足りないながらも、歩み寄りがうかがえる指先の感触とか、体温とか、そのときの主人公の心理の描かれようが胸に沁みこんできます。

 いつものことながら、タイトルも秀逸ですね。読了後、確かにこの話は「波打ち際の蛍」だと実感しました。

 大作「ナラタージュ」の完成度を思い返してしまうと、構成の細部が若干弱いかな、という気もしますが、主人公の考え方や相手に求めるもの、割り切るところ、そうしたスタンスの描写はたいへん前進していて、大人になっていて、好感が持てました。

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2008年9月10日 (水)

黒史郎「100KB(キロババア)を追いかけろ」

100KB[キロババア]を追いかけろ Book 100KB[キロババア]を追いかけろ

著者:黒 史郎
販売元:講談社
Amazon.co.jpで詳細を確認する

 7月初旬に発行された黒史郎さんの長編作品です。やっと、読んだという感じで、すみません。 bk1ではこちら

 ぶっとんだタイトルですが、内容も振り切れていますw
 舞台は鶴見。7月5日から23日までのできごとです。

 白髪を振り乱した白い着物の老婆がものすごいスピードで車を追いかけてきたり、追い抜いたりする、交通事故を起こすものには制裁をも加えるという通称「100キロババア」という都市伝説を軸に話が進みます。

 メインとなる人物は、かつて凄絶な一家惨殺事件に遭遇し、いまは劇団員としてこの街に戻ってきたカオル。追突事故を起こして意識不明となった叔父を持つ、トオル。都市伝説マニアでチャットが好きなジュン。三人とも高校で友人で、5年ぶりに再会したばかり。まだ22歳ながらも、それぞれ心に深い傷を負ったものばかり。とりわけ、カオルの傷は、これだけの惨劇に遭遇しているのだから当然かもしれませんが、深すぎて読んでいて、つらかった。そうした青春群像劇としても読めます。

 この著者の最大の持ち味のひとつである、疾走感がテーマにあっていて、いかんなく発揮されています。カオルが全力で走る場面が特に好き。走る女性の姿は美しい、と思わせてくれます。
 ことに後半の「合唱」の断章からの高揚ぶりはただならない熱気を発していて、そこからラストまでの120ページほどは一気に読んでしまいました。
 前半に散らばれた謎の収縮ぶりもあざやかです。
「黒水村」でもおなじみの登場人物のテンポのよい会話のやりとりと、悪役の針の振り切れた狂気ぶりの描写はまさに黒史郎節が効いているというべきでしょうか。

 この著者にとっては、いつもながらのことですが、「ありそうでなかった」エンタテインメント作品です。
 カオルの河童の話も読みたい。

 鶴見をもっとよく知っていれば、もっと楽しめたのだろうなと思います。
 表紙は読了後に見返すと、作品の細かいところまで再現されていて、こじゃれております。

【おまけ】講談社特別無料配布品「100KBを追いかけろ 黒沼刑事の夏・編」

 100KBの登場人物のひとり、黒沼刑事に焦点をあてたサイド・ストーリー。黒沼刑事にこんな生活や日常があったとは。彼が惨殺事件の被害者カオルにどういう感情を向けていたかも知れて、たいへん興味深いです。

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2008年9月 5日 (金)

勝山海百合「竜岩石とただならぬ娘」全作レビュー

〔MF文庫ダ・ヴィンチ〕竜岩石(りゅうがんせき)とただならぬ娘 (MF文庫ダ・ヴィンチ (か-1-1)) Book 〔MF文庫ダ・ヴィンチ〕竜岩石(りゅうがんせき)とただならぬ娘 (MF文庫ダ・ヴィンチ (か-1-1))

著者:勝山海百合
販売元:メディアファクトリー
Amazon.co.jpで詳細を確認する

 勝山海百合さんの初の短編集。
 bk1ではこちら
 舞台は、東北から北陸、中国から、どことも知れぬ、それでいてどこかなつかしい風味の異郷が、時代も六朝時代から現代までを取り揃えたアジアンテイストの怪談集となっております。まさしく満艦飾。解説の東雅夫氏による、「幕の内弁当みたいだ」はいい得ています。

 本編の全作レビューです。この短編集の面白さの紹介が目的なので、できるだけネタバレなしにしましたが。


『王冠のバナナ』
 東北怪談。柳田國男とか連想してしまいます。普段はやさしい祖父が山に入ると厳しくなります。守らなければゆけない約束のなんと多いこと。そして、怪異が出現。振り向いてはゆけない。最後の最後まで気の抜けない構成も怖い。

『ひょうたん息子』
 五十嵐彪太さんの息子の話かと思いました、というべたな冗談はやめておきましょう。
 奇妙な話で、とぼけた風味ながらも、なにやら奇怪で怖いです。
 されど、「最初で最後の抱擁」の場面は胸が詰まりました。
 ラストは娘の生んだ双子についても触れてほしかった。
 最後の一文は味わい深いです。

『羅浮之怪』
 web幽の読者投稿怪談、お題「山」に掲載された作品ですね。志怪風味。とぼけた味わいが印象深いです。

『女の紐』
「女性諸君」という感じですね。冒頭と末尾が際立っています。女性に限らず、悪いこと、小ざかしい小細工は戒めるべき、です。

『楽士の息子』
 松本楽志さんの息子さんの話かと(略)。
 楽士の復讐譚。冒頭の趙橘の容貌の描写はもう少し描かれたほうが終幕に効果があったのでは。

『流刑』
 狐の話。読み手をあざむいてくれる趣向になっています。狐と瓢箪の相性もよろしいようで。

『馬の医者』
 普通に竜がいるところが、なんとも中華ですよね。これまたとぼけた風味。ラストの一文はむべなるかな。

『竜岩石』
「幽」に掲載されたときも読みました。
 あたかも、たくさんの屏風絵の飾られている間を歩いているみたいに、場面が切り替わる構図を取っています。本作をスピンアウトさせた小蕾や白家の娘や九華の話も読んでみたいです。
 微妙に本短編集の別の作品とリンクしているあたりもしゃれています。
 作品上、竜岩石に光があたるのがやや遅いかな、という気もしますが、「水に恋う」という節題は適していますね。
「桃夭」はぜひ、海百合訳で読みたかったです。

 ダ・ヴィンチにサイドストーリーが掲載されるみたいですよ。

『ただならぬ娘』
 短編集のうち、もっとも物語性があります。それだけに、もう少し長い枚数の作品にしあげたほうがよかったかなあと。登場人物も整理されきれていない印象がありますし、ただならぬ娘の尋常ならざる能力もいかんなくは描かれていないし、悪役にも憎しみがわきませんでした。最後の犬もよくわからなかったです。
 いったん妖しいものにさらわれて、それまでとは違った娘になって帰ってくるあたりが、聶隠娘なのかな。

『山のあやかし』
 妖怪と少年の知恵くらべ。あやかしのしゃべりがいかにも中華テイストですが、作品の舞台を限定していないあたりが雰囲気をかもすのに成功しています。ラストの一文には膝を叩いてしまいました。

『ねぎ坊主』
 タイトルからはとてもそうは予測できない、なんとカニパリズム。食ったり食われたり、ですか。救いがないです。登場人物のジンナという名前もいいです。

『いいなずけ』
 これまた悲しくせつない話ですね。亡くした足の爪先の痛みがなんとも。

『道連れ』
 インドが舞台。河のほとりの葬列にて、見かけたのは。

『炊飯器』
 純文学風。怪異譚。身近にありそうな話だけにうなずいてしまいました。

『猫と万年青』
 これまた純文学風。陶芸品が題材。こういう一般には知られていない世界を描いた作品はもっと書いてほしいです。詳しくないので、この作品の本当のよさがわからない自分がちょっとくやしいです。

『石に迷う』
 この短編集のなかでいちばん好きです。篆刻という題材にも興味をおぼえます。冒頭の女流篆刻家の紹介がなんとも堂に入ってます。作品世界に入ってゆけます。
 上海が舞台になっているだけに、林京子さんの作品を連想してしまいました。
 杭州観光が楽しめるところもポイントです。作中に出てくる、西湖ビールや乞食鶏は僕も杭州で飲んだり食べたりしました。乞食鶏は焼いた淡水魚のような味でした。蘇東坡の名が出てくるのもうれしい。

『陶片』
 またも純文学風と思わせておいて、ホラーです。触手も出てきます。作品と関係があるかどうか微妙ですが、どうもあの、このところ、触手とか読むと色白で指先のきれいな女形風のお兄さんの顔がよぎってならないのですがw
 ラストの情景は、なんだかクトゥルーっぽい、とか思ってしまいました。

『竹園』
 書聖、王右軍の息子ふたりの話。仲のよい兄弟の逸話です。同作者の「書聖」や「雪夜訪戴」をあわせて読むとひろがりがあることでしょう。
 六朝時代はじめの偉人の現行録「世説新語」では、とかく末っ子で優秀と誉れの高い王献之の引き立て役にされがちな兄ですが、それだけにこの傷ましいエピソードは悲しく胸に迫ってきます。
 この作品のタイトルがどうして「竹園」であるのか、より詳しく知りたい方は「世説新語」の一読をおすすめします。
 なあんて、下手な解題は末尾の「その人」のように、なってしまうかな。

『白桃村』
「てのひら怪談 寿」掲載作。結婚祝いにふさわしく桃の話です。

『媚珠』
 これまたただならない娘の話。しかし、そのわけは。珠の話でしめくくりとは、きれいに閉じていますね。


 全体を通して、作中に注釈が入ると、また志怪らしい印象が強まったのでは、と思いました。あと、作中舞台となった地図もあるとなおよかったかも。

【おまけ】巻末収録作品レビュー
高橋史絵「井守御寮」
 この短編集にふさわしい掲載作。イモリの嫁入りの場面にほほえましさをおぼえます。最初の奥さんが霞に包まれているあたりもよし。出だしと末尾が拮抗整っていて、きれいにまとまっています。

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2008年9月 3日 (水)

伸縮怪談感想

 ネタバレあり感想です。ご注意。

山口萩雄「落花」

 さすが、というべきか500文字作品が、もっともまとまっています。不気味さ、残酷さ、色彩がもたらす視覚的イメージもいちばん鮮明になっている。ハイビスカスやハチドリをモチーフにして、この残酷さと切なさは忘れがたい印象を残します。

勝山海百合「マコの恩返し」
http://d.hatena.ne.jp/umiyuri/20080825

 宴の会場でうかがった「ヒモロギヒロシを意識」「うる星やつらの」云云は、作品を読むうえではいったん、頭から消して、感想を書いてみます。
 マコかわいいよ。マコ。伸縮怪談としては、変化球ですが、読者を楽しませるための技巧であれば、それもまたよし。
 同じ話を単純に三つ並べるだけではなく、視点を移動させて書いてます。読み手を楽しませようとする作者の心意気が感じられて好印象。
 でも、マコの語り口が800と1200でちがってないかな。
 ラストの「酷似」については、そのままずばりあらわすのではなく、描写か男の独白によって、そう感じさせたほうが、浮き彫りになり、心に残るのではと思いました。フィギュアなだけに。

金子みづは「波間で、手を振るように」
http://zigzaggar.blog63.fc2.com/blog-entry-137.html

 金子みづはさんは「てのひら2」で前後して掲載されただけに、勝手に意識しています。吸血鬼イベントでは遠くからもお見かけしました。ブログも読んでいます。創作と作者の日常とは別のものと意識しておりますが、今回の作品を一読して、いろいろ感じ入るところがありました。祈っております。
 前置きが長くなりましたが、感想。
 全体をとおして、文字の並びが整っていて美しく、ちらりと眺めただけで良作であるとうかがい知れました。細密画を目にしているか、快い音楽を耳にしているようでした。今回の優秀作品のうちでもっとも好きな作品です。
 二重映しの情景の美しさ。そうかと思えば、急に現実に引き戻される不安と孤独。腕を伸ばしても届かないせつなさ。胸の深いところで情感がざわめいてきます。

 おまけの300字については、さすが金子みづはさん、と声を大にして言い添えておきます。

亜紅「空気の違う人」

 500字、800字、1200字ともプロットに大きな違いはなく、時間の経過もそれほど変わっていない。それでいて違和感がないところに技巧を感じる。最後の一節に受けるつき離されるような印象も字数に関係なく印象深かった。

告鳥友紀「歯のある日常」

 1200字作品ではじめて、真相にせまる事実が明かされるという趣向。なのだけれども、500字でも、800字でも、これはこれで作品として成立していて、怖さのポイントが違うという水際立った怪談。

行一震「闇の奥の階段」

 これもまた、視点の切り替えによって、多角的な角度からひとつの事象を描き、幅の広がりをみせています。ひとりひとりの悩みが違うところや、思うところが違うところが読むひとの共感を得ることでしょう。題材の選び方からしてよいです。

坂巻京悟「万年氷」

 500字は、わらべ歌風。800字は民話風、1200字は小説風に描かれています。民話風で「謂れなき汚名」とはなんだろう、と思わせておいて、小説風で解明させる。民話で語られる伝承と実際の事件や実感のギャップがあるところに、作者の思惑が感じとれ、深みがあります。

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