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2008年9月14日 (日)

島本理生『波打ち際の蛍』

波打ち際の蛍 Book 波打ち際の蛍

著者:島本 理生
販売元:角川グループパブリッシング
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 元恋人のDVから逃れて、近所のドラッグストアで買い込んだ風邪薬36錠と吐き気どめ18錠、鎮痛剤12錠、抗生物質6錠をビールで一気飲みして、ICUに運び込まれた川本真由は、その後カウンセリングに通うようになり、エレベーターでうずくまっていた男性、植村蛍を介抱することになる。それがふたりの出会い。
 心の病を抱えたもの同士のふたりは、惹かれあい、どちらも不器用ながらも歩み寄りはじめるが。

 ふたりの、薄暗いなかを文字通り、手探りで歩み寄ってゆく、はじめのあたりの展開はもどかしさを伴いつつも、それがかえって心地よい律動を感じます。
 蛍の書斎は拝見してみたいな。
 足のマッサージも受けてみたいです。

 主人公が元恋人から受けていたDVの実態がよく見えず、もちろんそれを主人公から語らせるには酷過ぎるので、あるいはこの作品は一人称形式よりも、蛍やさとるくん、あるいは主人公の母親の視点からも書いたほうが、幅がひろがり、より主人公の傷が浮かびあがったのではないかな、と少し思いました。

 ことに蛍に関しては、誕生日のあの行動はだめだろう、というか無頓着すぎるだろう、と疑問に感じ、もっといえば、ほんといままでの物語のゆるやかなリズムを一気に覆された気がしたので、彼の視点から、どうしてああいう行動を取ったのか、それでいいと思ったのかをを、ぜひ描いてほしかった気がする。

 さとるくんは役の大きさからすると、登場がちょっと遅いかな。最後のほうでも、さとるくんや母親にもちょこっとでいいから登場してほしかった。

 空港の近くの夜の海岸で発着する飛行機の光をふたりで見つめる場面がいちばん好きです。場面の美しさもだけれども、手をつないだ、というには若干足りないながらも、歩み寄りがうかがえる指先の感触とか、体温とか、そのときの主人公の心理の描かれようが胸に沁みこんできます。

 いつものことながら、タイトルも秀逸ですね。読了後、確かにこの話は「波打ち際の蛍」だと実感しました。

 大作「ナラタージュ」の完成度を思い返してしまうと、構成の細部が若干弱いかな、という気もしますが、主人公の考え方や相手に求めるもの、割り切るところ、そうしたスタンスの描写はたいへん前進していて、大人になっていて、好感が持てました。

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