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2008年9月 5日 (金)

勝山海百合「竜岩石とただならぬ娘」全作レビュー

〔MF文庫ダ・ヴィンチ〕竜岩石(りゅうがんせき)とただならぬ娘 (MF文庫ダ・ヴィンチ (か-1-1)) Book 〔MF文庫ダ・ヴィンチ〕竜岩石(りゅうがんせき)とただならぬ娘 (MF文庫ダ・ヴィンチ (か-1-1))

著者:勝山海百合
販売元:メディアファクトリー
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 勝山海百合さんの初の短編集。
 bk1ではこちら
 舞台は、東北から北陸、中国から、どことも知れぬ、それでいてどこかなつかしい風味の異郷が、時代も六朝時代から現代までを取り揃えたアジアンテイストの怪談集となっております。まさしく満艦飾。解説の東雅夫氏による、「幕の内弁当みたいだ」はいい得ています。

 本編の全作レビューです。この短編集の面白さの紹介が目的なので、できるだけネタバレなしにしましたが。


『王冠のバナナ』
 東北怪談。柳田國男とか連想してしまいます。普段はやさしい祖父が山に入ると厳しくなります。守らなければゆけない約束のなんと多いこと。そして、怪異が出現。振り向いてはゆけない。最後の最後まで気の抜けない構成も怖い。

『ひょうたん息子』
 五十嵐彪太さんの息子の話かと思いました、というべたな冗談はやめておきましょう。
 奇妙な話で、とぼけた風味ながらも、なにやら奇怪で怖いです。
 されど、「最初で最後の抱擁」の場面は胸が詰まりました。
 ラストは娘の生んだ双子についても触れてほしかった。
 最後の一文は味わい深いです。

『羅浮之怪』
 web幽の読者投稿怪談、お題「山」に掲載された作品ですね。志怪風味。とぼけた味わいが印象深いです。

『女の紐』
「女性諸君」という感じですね。冒頭と末尾が際立っています。女性に限らず、悪いこと、小ざかしい小細工は戒めるべき、です。

『楽士の息子』
 松本楽志さんの息子さんの話かと(略)。
 楽士の復讐譚。冒頭の趙橘の容貌の描写はもう少し描かれたほうが終幕に効果があったのでは。

『流刑』
 狐の話。読み手をあざむいてくれる趣向になっています。狐と瓢箪の相性もよろしいようで。

『馬の医者』
 普通に竜がいるところが、なんとも中華ですよね。これまたとぼけた風味。ラストの一文はむべなるかな。

『竜岩石』
「幽」に掲載されたときも読みました。
 あたかも、たくさんの屏風絵の飾られている間を歩いているみたいに、場面が切り替わる構図を取っています。本作をスピンアウトさせた小蕾や白家の娘や九華の話も読んでみたいです。
 微妙に本短編集の別の作品とリンクしているあたりもしゃれています。
 作品上、竜岩石に光があたるのがやや遅いかな、という気もしますが、「水に恋う」という節題は適していますね。
「桃夭」はぜひ、海百合訳で読みたかったです。

 ダ・ヴィンチにサイドストーリーが掲載されるみたいですよ。

『ただならぬ娘』
 短編集のうち、もっとも物語性があります。それだけに、もう少し長い枚数の作品にしあげたほうがよかったかなあと。登場人物も整理されきれていない印象がありますし、ただならぬ娘の尋常ならざる能力もいかんなくは描かれていないし、悪役にも憎しみがわきませんでした。最後の犬もよくわからなかったです。
 いったん妖しいものにさらわれて、それまでとは違った娘になって帰ってくるあたりが、聶隠娘なのかな。

『山のあやかし』
 妖怪と少年の知恵くらべ。あやかしのしゃべりがいかにも中華テイストですが、作品の舞台を限定していないあたりが雰囲気をかもすのに成功しています。ラストの一文には膝を叩いてしまいました。

『ねぎ坊主』
 タイトルからはとてもそうは予測できない、なんとカニパリズム。食ったり食われたり、ですか。救いがないです。登場人物のジンナという名前もいいです。

『いいなずけ』
 これまた悲しくせつない話ですね。亡くした足の爪先の痛みがなんとも。

『道連れ』
 インドが舞台。河のほとりの葬列にて、見かけたのは。

『炊飯器』
 純文学風。怪異譚。身近にありそうな話だけにうなずいてしまいました。

『猫と万年青』
 これまた純文学風。陶芸品が題材。こういう一般には知られていない世界を描いた作品はもっと書いてほしいです。詳しくないので、この作品の本当のよさがわからない自分がちょっとくやしいです。

『石に迷う』
 この短編集のなかでいちばん好きです。篆刻という題材にも興味をおぼえます。冒頭の女流篆刻家の紹介がなんとも堂に入ってます。作品世界に入ってゆけます。
 上海が舞台になっているだけに、林京子さんの作品を連想してしまいました。
 杭州観光が楽しめるところもポイントです。作中に出てくる、西湖ビールや乞食鶏は僕も杭州で飲んだり食べたりしました。乞食鶏は焼いた淡水魚のような味でした。蘇東坡の名が出てくるのもうれしい。

『陶片』
 またも純文学風と思わせておいて、ホラーです。触手も出てきます。作品と関係があるかどうか微妙ですが、どうもあの、このところ、触手とか読むと色白で指先のきれいな女形風のお兄さんの顔がよぎってならないのですがw
 ラストの情景は、なんだかクトゥルーっぽい、とか思ってしまいました。

『竹園』
 書聖、王右軍の息子ふたりの話。仲のよい兄弟の逸話です。同作者の「書聖」や「雪夜訪戴」をあわせて読むとひろがりがあることでしょう。
 六朝時代はじめの偉人の現行録「世説新語」では、とかく末っ子で優秀と誉れの高い王献之の引き立て役にされがちな兄ですが、それだけにこの傷ましいエピソードは悲しく胸に迫ってきます。
 この作品のタイトルがどうして「竹園」であるのか、より詳しく知りたい方は「世説新語」の一読をおすすめします。
 なあんて、下手な解題は末尾の「その人」のように、なってしまうかな。

『白桃村』
「てのひら怪談 寿」掲載作。結婚祝いにふさわしく桃の話です。

『媚珠』
 これまたただならない娘の話。しかし、そのわけは。珠の話でしめくくりとは、きれいに閉じていますね。


 全体を通して、作中に注釈が入ると、また志怪らしい印象が強まったのでは、と思いました。あと、作中舞台となった地図もあるとなおよかったかも。

【おまけ】巻末収録作品レビュー
高橋史絵「井守御寮」
 この短編集にふさわしい掲載作。イモリの嫁入りの場面にほほえましさをおぼえます。最初の奥さんが霞に包まれているあたりもよし。出だしと末尾が拮抗整っていて、きれいにまとまっています。

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