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2008年10月29日 (水)

田辺青蛙「生き屏風」

生き屏風 (角川ホラー文庫 た 2-1) Book 生き屏風 (角川ホラー文庫 た 2-1)

著者:田辺 青蛙
販売元:角川グループパブリッシング
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 第15回日本ホラー小説大賞短編賞受賞作である表題作をふくむ3作品が収録された連作形式短編集。

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 帯の惹句には「しみじみ泣けてくるホラー小説」とありますが、僕の感じとしては、ほっこりくる暖かい不思議な味わいの怪談連作です。

 村はずれに暮らす妖鬼の皐月(さつき)のもとに、風変わりな依頼が持ち込まれてくる。一昨年に亡くなった酒屋の奥方の霊が屏風に宿り、なにかとわがままをいって、家のものを困らせているのだという。皐月は奥方の話し相手になって欲しいと頼まれるのだが。
 ほどよい距離感が心地よい雰囲気の作品群です。

 ところどころ、使われている語句が硬く、現代的で、もうひと選りしたほうが、和のテイスト、作品の雰囲気になじむかな、という点は全体に見受けられるのですが、それでもこの世界の独特の雰囲気と不思議さを違和感なく築き上げているところや作品として落としこめているあたりは好印象です。

 なかでも作中で出てくる飲み食いの光景のなんとあざやかであること。読んでいるだけで、こちらまで妖しい宴にひきこまれ酩酊してくるほろ酔い加減を満喫できます。

 以下、各短編の評。ネタバレありです。

「生き屏風」
 もう、冒頭からしてすばらしいの一言。
 読み手の意表を突いているし、なおかつ、続きを読まずにはいられなくなります。
 その後の展開も自然な流れで、妖鬼とはなにかから、いまの酒屋のお家事情なども過不足なく読み手に伝わります。
 酒屋に住んでいる人間のどうしようもない人間らしさが描かれているところも目配りが効いています。

 皐月が夏の夜空を見あげる場面が好き。

 最後の海の情景も眺望よく、読後感としてもしんみり。馬の首のなかで眠る女が海のなかで眠る生き屏風へと導くのですね。

 ラストの挿話は蛇足かな、と思いましたが、後続の作品を読んでからは作者の構成の妙と先見に恥じいってしまいました。

「猫雪」
 この短編集のなかでいちばん好きですね。
 家業を弟に丸投げして、なにをするでもなく家で始終だらけてばかりの次郎のどうしようもなさがなんとも憎めず、ほほえましい。

 雪に変化して、村のあちこちに、かつて情を交わした女の肌に、子供のときに出会った村はずれの妖鬼(もちろん皐月である)の目睫に、雪となって降る描写はほのかに官能じみており、あざやかで、全体観があります。
 お酒を飲みながら、読むとまた楽しいかも。

「狐妖の宴」
 これといって大きな事件も起きず、なんとはない春の村のひととき。
 登場人物もそろった感じで、お膳立てが整ったところで、ほのぼのとひとまず閉幕。


 などと書いていたら、どうやらシリーズ化決定だそうです。続刊が楽しみです。

 以前も書いたけど、あらためて。巻末収録の作者の受賞者の言葉はしみじみとしていて、一読忘れがたいよい一文です。

 今宵も皐月は馬の首のなかで眠っていることでしょう。

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