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2008年10月31日 (金)

雀野日名子「トンコ」

トンコ (角川ホラー文庫 (Hす2-1)) Book トンコ (角川ホラー文庫 (Hす2-1))

著者:雀野 日名子
販売元:角川グループパブリッシング
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 第15回日本ホラー小説大賞短編賞受賞作である表題作をふくむ3作品が収録された短編集。「生き屏風」の田辺青蛙さんと同時受賞作。

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 ネタバレあり、感想です。

「トンコ」
 高速道路での運搬トラックの横転により、一匹の雌豚、「トンコ」が脱走する。先に運び出された兄弟たちの匂いを頼りに、逃げ続けながらも、山林を海辺を人の町をさまようトンコ。かつての兄弟たちとの思い出を胸にさまよいつづける。はたして再会できるのか。

 食用豚が主人公という着眼がまず、目新しいですね。
 トンコがはじめ「063F11」と記号化されているので、「063」が親番号その雌の11番目の子供だから、この記号なのかな、とか推測してしまいます。
 冒頭を読むと、ホラーというより、SFっぽいけれども、その境界線の揺れ具合が読んでいて楽しいです。
 実際、運び出されるトンコが繁殖用豚舎を横切った際に、母豚こと「F11」を嗅覚で察知する場面があるけれども、そのときの彼女は交尾の真っ最中で、このあたりの描写はまさしくオートメーション化された機械を見ているかのようでした。

 脱走し、山林を駆けめぐるトンコの描かれぶりには疾走感がある。小柄で短い肢の豚の逃走場面であるにもかかわらず、失踪感があるのです。

 豚であるゆえに、心理描写も人間のように細かくは描かれず、論理ある思考とも無縁のままトンコは逃走を続ける。トンコを探す豚舎の職員、警察、ネットでこの騒動を知った野次馬で凶暴な少年たち、かれらの捜索と包囲と平行して描かれるトンコの逃走ぶりはスリリングでもあります。

 やがて、日没の迫る人気のない浜辺にたどりつくトンコ。夕暮れの波打ち際をさまよう豚の姿はどうしてだか美しく映ります。

 そして、あまりにも残酷な兄弟たちとの再会と、逃走劇の決着へとたどりつきます。
 ラストはどう終わるのだろうか、と気になっていたのだけれども、これまた美しくも残酷極まりない、それでもそういうものなんだろうという諦観を暗示させる最後を迎えます。なんとも複雑な思いを抱かせる作品でした。

「そんび団地」
 両親の喧嘩といいあらそいが絶えない家庭で育つ小学生のあっちゃんの視点から描かれた物語。
 ぞんびとこっくりさんをやる場面がなんともシュール。
 お父さんが闇夜に埋めるものをのぞきこむ場面がこれまた残酷。

「黙契」
 前作の「あちん」に収録されていた宮地ちゃんの話が自分にとっては、身につまされて痛い話であったけれども、これまたつらい話だと思った。
 生まれた土地を離れて、東京に出てくると、ときに身も思いも引きちぎられるような思いを抱くことがあるけれども、それが極端になるとこういう悲しみが起きるんだと思う。歯車がひとつはずれただけで。
 残されたお兄さんのつらさの描写も身に沁みた。

 収録作では「トンコ」が好き。こういう変わったテイストの作品をもっと書いて欲しい。

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