2009年9月 8日 (火)

【読書】東雅夫編『文豪てのひら怪談』

文豪てのひら怪談 (ポプラ文庫 ひ 1-1) Book 文豪てのひら怪談 (ポプラ文庫 ひ 1-1)

著者:東 雅夫
販売元:ポプラ社
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 小泉八雲、泉鏡花、夏目漱石、岡本綺堂、星 新一、筒井康隆、村上春樹、吉本ばなな、川上弘美と名だたる文豪たちの800字前後と、「てのひら怪談」とほぼ同じコンセプトで集めた怪談集。
 もちろん抄録もあるものの、これだけ多くの作家が掌編怪談を手掛けていたのか、と楽しい気持ちになります。

 毎日、ちょこちょこ読んでいました。

 日本のみならず、中国の六朝時代から清代までの文人の志怪作品までが収められています。

 個人的にうれしかったのは、黒井千次『星からの1通話』から作品が収録されていたこと。

 ショートショート、超短編、てのひら怪談という掌編ムーブメントが起きているさなかで、黒井氏のこの作品集に対しての言及があまり見受けられないことに、物足りなさと残念さをおぼえていたので。

 山下昇平氏による、表紙や挿絵の猫がなんともかわいらしいです。

 続編も希望。今度は世界の文豪てのひら怪談とかw

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2009年9月 7日 (月)

【読書】黒史郎「夜は一緒に散歩しよ」文庫版

夜は一緒に散歩しよ(MF文庫ダ・ヴィンチ) Book 夜は一緒に散歩しよ(MF文庫ダ・ヴィンチ)

著者:黒史郎
販売元:メディアファクトリー
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 黒史郎さんの第1回『幽』怪談文学賞長編部門受賞作の文庫化作品。
 著者にとってのデビュー作にもあたります。加筆修正版です。

 僕は幽ブックスの単行本版も持っているので、文庫一読後に読み比べてみたりもしました。

 大小取り混ぜて、かなりの分量が修正され、加筆もおこなわれております。単行本版の際にはやや、くりかえしの叙述や文章の凹凸も感じたものですが、文庫化に際して、全体を通して地ならしがされ、整いもあらたになった印象です。

 ただし、筋や語り口は変更されていません。

 オカルト作家の横田卓郎は工芸大学在学中に知りあった妻を早くに亡くし、3歳になる娘の千明とともに暮らしている。
 だが、千明には普通の人には見えないものが見えるらしく、彼女の描く絵には不気味なものばかりがあらわされる。
 やがて、卓郎と千明の周囲のひとびとが少しずつ奇怪な行動をとるようになり、ついには謎の失踪したり、不吉きわまりない死を遂げたりするまでにいたる。

 ストーリーテラーの黒氏ならではの底に黒いものが流れるような不気味な導入部。主人公たちの住んでいる神奈川県の鶴見とおぼしき工業都市の夜の河さながらの平穏ならざる雰囲気が伝わってきます。

 初読時はストーリー進行時の視点の切り替えがやや唐突であったこと、ラストがいささか書き急いでいる印象があった本作ですが、大幅な加筆によってだいぶそのあたりの緩やかさも一変しています。

 単行本で読んだときよりも、登場人物の幾人か、卓郎の妻になる美樹さんや弓倉摩耶美の存在を身近に感じました。



 表紙の山下昇平氏による千明ちゃんの造形、および作品の主舞台と思われる鶴見の町並みには一見、すごみがつたわってきます。

 巻末には、黒史郎さんの作家としてデビューされるまでの波乱ありまくりの経緯も披露されていて、ファンは必読です。
 また、現在も続いている黒さんの「妖怪仲間」との出会いや交流の経緯も語られていて、あとから来た身としては、たいへん興味深く読みました。

 巻末の京極夏彦氏による、本作の「怪談」定義をめぐる一文は、怪談好きには、これまた必読の箇所です。

 さらに巻末には、日本物怪観光の天野行雄氏、山下昇平氏という二大アーティストの寄稿も収録されており、お得感ある一冊になっています。

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2009年8月24日 (月)

石神茉莉『謝肉祭の王』玩具館綺譚

謝肉祭の王 玩具館綺譚 (講談社ノベルス イQ- 2) Book 謝肉祭の王 玩具館綺譚 (講談社ノベルス イQ- 2)

著者:石神 茉莉
販売元:講談社
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 妖怪イベントなどで、しばしばお会いする、石神茉莉さんの講談社ノベルス「玩具館 三隣亡」シリーズ2作目が、先日、刊行されたので、さっそく読んでみました。

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 謎と心理描写の精密さで、くいくい引っ張ってくるストーリー展開なので、すぐに読み終わりました。
 シリーズでおなじみの玩具館「三隣亡」の店員兄妹も登場します。

 以下、ネタばれあり、感想です。

 

 

 

 

 

 

 イタリアの血を半分引いた美貌の若手男性が友人の女性作家、千晶にいわくありげな仮装用の仮面を譲り、その直後に忽然と失踪する。仮面には処刑にまつわる血なまぐさい伝説が。それを裏づけるように千晶の周囲にも不吉な事件が起きてゆく。

 千晶は母ひとり娘ひとりの暮らしで細細とながらも作家で生計を立てているのですが、本作はこの千晶の細密な心理描写によってストーリーがすすんでゆきます。
 現代の小説をめぐる出版界の流通の移りのめまぐるしさに嘆く場面など、ついつい幻想小説家としての作者の姿をかさねあわせて見てしまいます。
 主人公がそうした作者の投影と錯覚できるほどに近いせいか、うがつような心理の動きと、次第に忍び寄る得体の知れない恐怖への迫りくる不安ぶりには、ついつい読みふけってしまいます。
 後半からは、物語も求心性を持ち、恐怖も加速してくるので、一気です。

 黒を華やかに着こなす美女、美珠(みたま)は前作の1作目『人魚と提琴』ではストーカー男に対ゾンビ用銃で尋問する場面が、なんとも印象深かったですが、今度は日本刀できます。
 この、謎を全身にまとわせた沈着な美女が動揺したり、驚愕する場面を見る日が来るものかどうかも、自分にとっては、今後のシリーズを読んでゆく上での楽しみのひとつです。

 本シリーズでは定番となりつつある、お茶とスイーツの場面もふんだんに描かれています。

 それから、美珠の兄にして、「三隣亡」の店主の「ゾンビにしか興味のない男」のTが今回、たいへん頼りがいがあり、彼が登場して来るだけで安堵感をおぼえたものですが、これって僕だけの感想でしょうか。

 次回作にも期待度大です。

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2009年8月23日 (日)

完全版「最後のユニコーン」

完全版 最後のユニコーン Book 完全版 最後のユニコーン

著者:ピーター・S. ビーグル
販売元:学習研究社
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 旧訳をどのくらい前に読んだものか、おぼえていないけれど、いざ読んでみるといろいろおぼえていて、あれこれ思いだした。
 本編の最後の方では、胸に迫るものがあり、熱いものがこみあげてきた。
 大人になって読み返してみると、登場人物の声に別の響きや意味が感じ取れるとは、よいファンタジーの証なのだろう。

 37年のときをおいて書かれたという続編は、その「37年のとき」というのが、作家によっては筆の衰えや、老残の影を見せたりするひともいるので、不安だったけれども、読んでみたら、むしろ、ときがおかれたことによる、充実さを感じて、これまたよい作品だった。ありがとう、といいたいくらいに。

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2009年2月23日 (月)

幻想探偵(異形コレクション)

幻想探偵―異形コレクション (光文社文庫) Book 幻想探偵―異形コレクション (光文社文庫)

著者:井上 雅彦
販売元:光文社
発売日:2008/12/09
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 半ズボンの見るからに聡明そうな探偵風の男の子の人形(なのかな)が表紙。おおっ、まさしくショタだw

 巻頭はわれらが黒史郎。
 月夜の山上のあやしげな洋館での怪奇な物語。探偵役の少年も対する婦人も怪しい雰囲気をまとわせています。
 新鋭作家のこれまた新しい作風を垣間見せてくれるようで、黒史郎ファンは一読の作品です。

 高橋葉介さんの作品は、夢幻紳士登場。
 監修の井上雅彦さんも述べておられますが、「幻想探偵」ときいて、僕も真っ先に思いつくのはこの夢幻紳士です。
 ひさしぶりに煙草を吸っていますね。あいかわらずのすかした表情で、これまた変わらずに、なにもしていないところがいかにも夢幻紳士らしいです。

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2008年11月 9日 (日)

【告知】幻視コレクション

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 秋山真琴さんより、告知案内。

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■11月9日(日)文学フリマにて

『幻視コレクション~新しい現実の誕生~』を

定価 700円で頒布。

ブースはA-52、puhipuhiさんに委託。

■詳細は↓
http://magazine.kairou.com/
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掲載作家と作品一覧はこちら。
http://magazine.kairou.com/info/20081018.html#more

僕も2作掲載されています。

当日9日は会場にうかがう予定です。。
文庫を手に取るのが楽しみです。

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2008年11月 3日 (月)

幻視コレクションに掲載されます

 回廊文庫の『幻視コレクション~新しい現実の誕生~』に添田健一名義で拙作が2作掲載されます。

 作品名は、

「七月二十三日早朝、大楠の前で」
「ひとりうたい」
です。

http://magazine.kairou.com/info/20081018.html

 11月9日(日)の文学フリマにて販売になるかと思います。

 おおっ、巻頭は加楽幽明くんの作品なのですね。

 黒史郎さんをはじめとして、ほかにもてのひら作家や超短編、回廊のおなじみの執筆陣がそろっております。ぜひ、お求めを。

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2008年10月31日 (金)

雀野日名子「トンコ」

トンコ (角川ホラー文庫 (Hす2-1)) Book トンコ (角川ホラー文庫 (Hす2-1))

著者:雀野 日名子
販売元:角川グループパブリッシング
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 第15回日本ホラー小説大賞短編賞受賞作である表題作をふくむ3作品が収録された短編集。「生き屏風」の田辺青蛙さんと同時受賞作。

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 ネタバレあり、感想です。

「トンコ」
 高速道路での運搬トラックの横転により、一匹の雌豚、「トンコ」が脱走する。先に運び出された兄弟たちの匂いを頼りに、逃げ続けながらも、山林を海辺を人の町をさまようトンコ。かつての兄弟たちとの思い出を胸にさまよいつづける。はたして再会できるのか。

 食用豚が主人公という着眼がまず、目新しいですね。
 トンコがはじめ「063F11」と記号化されているので、「063」が親番号その雌の11番目の子供だから、この記号なのかな、とか推測してしまいます。
 冒頭を読むと、ホラーというより、SFっぽいけれども、その境界線の揺れ具合が読んでいて楽しいです。
 実際、運び出されるトンコが繁殖用豚舎を横切った際に、母豚こと「F11」を嗅覚で察知する場面があるけれども、そのときの彼女は交尾の真っ最中で、このあたりの描写はまさしくオートメーション化された機械を見ているかのようでした。

 脱走し、山林を駆けめぐるトンコの描かれぶりには疾走感がある。小柄で短い肢の豚の逃走場面であるにもかかわらず、失踪感があるのです。

 豚であるゆえに、心理描写も人間のように細かくは描かれず、論理ある思考とも無縁のままトンコは逃走を続ける。トンコを探す豚舎の職員、警察、ネットでこの騒動を知った野次馬で凶暴な少年たち、かれらの捜索と包囲と平行して描かれるトンコの逃走ぶりはスリリングでもあります。

 やがて、日没の迫る人気のない浜辺にたどりつくトンコ。夕暮れの波打ち際をさまよう豚の姿はどうしてだか美しく映ります。

 そして、あまりにも残酷な兄弟たちとの再会と、逃走劇の決着へとたどりつきます。
 ラストはどう終わるのだろうか、と気になっていたのだけれども、これまた美しくも残酷極まりない、それでもそういうものなんだろうという諦観を暗示させる最後を迎えます。なんとも複雑な思いを抱かせる作品でした。

「そんび団地」
 両親の喧嘩といいあらそいが絶えない家庭で育つ小学生のあっちゃんの視点から描かれた物語。
 ぞんびとこっくりさんをやる場面がなんともシュール。
 お父さんが闇夜に埋めるものをのぞきこむ場面がこれまた残酷。

「黙契」
 前作の「あちん」に収録されていた宮地ちゃんの話が自分にとっては、身につまされて痛い話であったけれども、これまたつらい話だと思った。
 生まれた土地を離れて、東京に出てくると、ときに身も思いも引きちぎられるような思いを抱くことがあるけれども、それが極端になるとこういう悲しみが起きるんだと思う。歯車がひとつはずれただけで。
 残されたお兄さんのつらさの描写も身に沁みた。

 収録作では「トンコ」が好き。こういう変わったテイストの作品をもっと書いて欲しい。

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2008年10月29日 (水)

田辺青蛙「生き屏風」

生き屏風 (角川ホラー文庫 た 2-1) Book 生き屏風 (角川ホラー文庫 た 2-1)

著者:田辺 青蛙
販売元:角川グループパブリッシング
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 第15回日本ホラー小説大賞短編賞受賞作である表題作をふくむ3作品が収録された連作形式短編集。

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 帯の惹句には「しみじみ泣けてくるホラー小説」とありますが、僕の感じとしては、ほっこりくる暖かい不思議な味わいの怪談連作です。

 村はずれに暮らす妖鬼の皐月(さつき)のもとに、風変わりな依頼が持ち込まれてくる。一昨年に亡くなった酒屋の奥方の霊が屏風に宿り、なにかとわがままをいって、家のものを困らせているのだという。皐月は奥方の話し相手になって欲しいと頼まれるのだが。
 ほどよい距離感が心地よい雰囲気の作品群です。

 ところどころ、使われている語句が硬く、現代的で、もうひと選りしたほうが、和のテイスト、作品の雰囲気になじむかな、という点は全体に見受けられるのですが、それでもこの世界の独特の雰囲気と不思議さを違和感なく築き上げているところや作品として落としこめているあたりは好印象です。

 なかでも作中で出てくる飲み食いの光景のなんとあざやかであること。読んでいるだけで、こちらまで妖しい宴にひきこまれ酩酊してくるほろ酔い加減を満喫できます。

 以下、各短編の評。ネタバレありです。

「生き屏風」
 もう、冒頭からしてすばらしいの一言。
 読み手の意表を突いているし、なおかつ、続きを読まずにはいられなくなります。
 その後の展開も自然な流れで、妖鬼とはなにかから、いまの酒屋のお家事情なども過不足なく読み手に伝わります。
 酒屋に住んでいる人間のどうしようもない人間らしさが描かれているところも目配りが効いています。

 皐月が夏の夜空を見あげる場面が好き。

 最後の海の情景も眺望よく、読後感としてもしんみり。馬の首のなかで眠る女が海のなかで眠る生き屏風へと導くのですね。

 ラストの挿話は蛇足かな、と思いましたが、後続の作品を読んでからは作者の構成の妙と先見に恥じいってしまいました。

「猫雪」
 この短編集のなかでいちばん好きですね。
 家業を弟に丸投げして、なにをするでもなく家で始終だらけてばかりの次郎のどうしようもなさがなんとも憎めず、ほほえましい。

 雪に変化して、村のあちこちに、かつて情を交わした女の肌に、子供のときに出会った村はずれの妖鬼(もちろん皐月である)の目睫に、雪となって降る描写はほのかに官能じみており、あざやかで、全体観があります。
 お酒を飲みながら、読むとまた楽しいかも。

「狐妖の宴」
 これといって大きな事件も起きず、なんとはない春の村のひととき。
 登場人物もそろった感じで、お膳立てが整ったところで、ほのぼのとひとまず閉幕。


 などと書いていたら、どうやらシリーズ化決定だそうです。続刊が楽しみです。

 以前も書いたけど、あらためて。巻末収録の作者の受賞者の言葉はしみじみとしていて、一読忘れがたいよい一文です。

 今宵も皐月は馬の首のなかで眠っていることでしょう。

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2008年9月14日 (日)

島本理生『波打ち際の蛍』

波打ち際の蛍 Book 波打ち際の蛍

著者:島本 理生
販売元:角川グループパブリッシング
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 元恋人のDVから逃れて、近所のドラッグストアで買い込んだ風邪薬36錠と吐き気どめ18錠、鎮痛剤12錠、抗生物質6錠をビールで一気飲みして、ICUに運び込まれた川本真由は、その後カウンセリングに通うようになり、エレベーターでうずくまっていた男性、植村蛍を介抱することになる。それがふたりの出会い。
 心の病を抱えたもの同士のふたりは、惹かれあい、どちらも不器用ながらも歩み寄りはじめるが。

 ふたりの、薄暗いなかを文字通り、手探りで歩み寄ってゆく、はじめのあたりの展開はもどかしさを伴いつつも、それがかえって心地よい律動を感じます。
 蛍の書斎は拝見してみたいな。
 足のマッサージも受けてみたいです。

 主人公が元恋人から受けていたDVの実態がよく見えず、もちろんそれを主人公から語らせるには酷過ぎるので、あるいはこの作品は一人称形式よりも、蛍やさとるくん、あるいは主人公の母親の視点からも書いたほうが、幅がひろがり、より主人公の傷が浮かびあがったのではないかな、と少し思いました。

 ことに蛍に関しては、誕生日のあの行動はだめだろう、というか無頓着すぎるだろう、と疑問に感じ、もっといえば、ほんといままでの物語のゆるやかなリズムを一気に覆された気がしたので、彼の視点から、どうしてああいう行動を取ったのか、それでいいと思ったのかをを、ぜひ描いてほしかった気がする。

 さとるくんは役の大きさからすると、登場がちょっと遅いかな。最後のほうでも、さとるくんや母親にもちょこっとでいいから登場してほしかった。

 空港の近くの夜の海岸で発着する飛行機の光をふたりで見つめる場面がいちばん好きです。場面の美しさもだけれども、手をつないだ、というには若干足りないながらも、歩み寄りがうかがえる指先の感触とか、体温とか、そのときの主人公の心理の描かれようが胸に沁みこんできます。

 いつものことながら、タイトルも秀逸ですね。読了後、確かにこの話は「波打ち際の蛍」だと実感しました。

 大作「ナラタージュ」の完成度を思い返してしまうと、構成の細部が若干弱いかな、という気もしますが、主人公の考え方や相手に求めるもの、割り切るところ、そうしたスタンスの描写はたいへん前進していて、大人になっていて、好感が持てました。

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